【休憩時間】

現在、特高の全てが『鮫島氏』の捜索、及び『鮫島事件』について追っている。
シタの所属する一課も、その事件に関して追われていた。
デスクに広がる「目撃証言」と「解釈の束」。
それの1つ1つに目を通していく。
なんだかどれもこれも曖昧で矛盾だらけの証言。
この証言を照らし合わせるとこの証言が成り立たず、あの証言を照らし合わせるとこの解釈が捻じ曲がる。
どれもこれも「事実」ではないのだろうか。
椅子をギィ、と倒して詰まった頭をすっきりさせようとする。
目を閉じると、閉じた瞼からでも感じた蛍光灯の光が何者かによって遮られる。
そういうことする人は、大体知ってる。

「よう、頑張ってるみたいだな。新入り。」
「…砂渡先輩。」
「飴ちゃん居るか?」
「レモンは苦手でして。」

目を開けると、見慣れた先輩の顔があった。
砂渡は未だ倒して目を閉じているシタの額に飴玉を乗せる。

「残念ながら、レモンもあるけどアップルにしておいてやるぜ。」
「お心遣い感謝いたします。」

額に乗せられた飴を手にして机に置く。
椅子を戻し、向き合う。
資料の束と山を見て砂渡はため息をついた。

「お前、初めての大事件だからって気合入りすぎだろ。」
「そうですか?」
「2人分じゃねーか。」
「見ての通り、みなさん捜査に出かけていますから。」

いつもより人が少し少ない気がする一課。
恐らく、情報収集もかねて鮫島の足取りを追っているのだろう。
がらん、としているわけではないが、心なしか少ない、というのが印象だった。
後は資料を取りに行ってる人や、仮眠をとっている人だろう。
シタは再び、資料に目を落とした。
はずだった。
いきなり視界が暗くなったと思えば、人のぬくもりが目に直接伝わる。

「…なんですか先輩。」
「もう昼だぜ~飯食いに行こうぜ。最近美味しそうな店見つけたんだよ。」
「…任務と一緒であれば行きますけど。」
「気張りすぎだっての。」

事件はめまぐるしい進展を見せない。
ドラマであれば、ここらへんで大きな、重要な証拠が見つかって。というシーンだろう。
だが、まるで日常は変わらない。
変わっているのは鮫島氏がいないことだけかもしれない。
否、変わっているのは自分の存在だろうか。
シタは、砂渡の後ろをついていった。
高い下駄の音と、砂渡の靴の音しかしない廊下。

(先輩の言う通り、気張りすぎなのかもしれない。)

外に出れば、眩しい日差しが自分たちを照らす。
初夏が近い、寒くもなく、少し汗ばむくらいの日差し。
一つ外に出れば、今まで背負っていた「事件」という肩書が全て剥がれたように日常は進んでいるように見えた。
そう、見えるだけかもしれない。
シタが西京に来たのはつい先日だ。まだ一か月も経っていない。
それなのに、何故か皆、とても優しい。
砂渡もそうだが、晴賢もとても優しい。
新人だからか、と思ったがそうではないらしく。同じ仲間として見られている。
自然体だな、という感じに取れた。

「えぇと、どこだっけか。」
「先輩…」
「交番あるから聞いてみようぜ。」

任務になると途端にサボり始める癖に、と心の中で少し悪態をついたが先輩なら仕方ないなと思った。
先輩の後をついていくと、そこはよく見たもう1人の先輩の顔があった。

「城山先輩。」
「あ、シタ君。」
「なんだ、お前ら知り合いだったのか。」
「ええ、まあ。」

先輩が先輩に道を聞いている間に、ふとあたりを見渡す。
においが、少し違うなと思った。
いつもはこんな匂いがしただろうか。
腹が減っているだけなのかもしれない。気のせいだったらいいなと思った。
険しい顔、ではなかったがシタは少し不安な表情を見せた。

「おう、シタわかったぞーあっちだ。」
「城山先輩は誘わなかったんですか?」
「誘ったけどさっき飯行って来ちまったんだってよ、つまり休憩終わってたってことだ。」
「また今度お誘いしましょ。」

砂渡に連れられ、定食屋さんに入る。
この、においも違う。
きっと、このことを言っても先輩は行動しないだろう。
今は、『休憩時間なんだから』というに決まってる。
お腹空いたな。何を食べようか。

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蒼天さんとシタ。先輩後輩コンビ。

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